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世界の斜め笛について

世界には様々なタイプの笛が存在しますが、斜めに構えて吹く笛があるのをご存知でしょうか?

とてもシンプルな構造なのに幅広い音域と表現力を持ち、シュワシュワとした独特なサウンドが魅力的な斜め笛。この記事ではそんな斜め笛の紹介をしていきます。

 

 

そもそも斜め笛とは?

実は「斜め笛」という正式な名称はなく、この手の笛をやっている界隈の人の中でそう呼ばれているだけです(というか僕の周りだけかも)。

後で紹介するネイやカヴァルといった楽器がこの「斜め笛」に該当するわけですが、この言葉はかなり微妙で、例えば見た目が斜めっぽく見える「テイバーパイプ」等はここでいう斜め笛には該当しません。僕が斜め笛と呼んでいるグループの最大の特徴は、吹き口の構造にあります。以下の画像をご覧ください。

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(※左からクライ、カヴァル、カワラ)

この画像のような「吹き口が単純な筒状になっている笛」が、僕が斜め笛と呼んでいるものです。フチの部分に微妙な角度で息を当てないといけないのですが、音の鳴りやすい角度を取るために必然的に斜めに構えることになります。これが笛が斜めになってしまう理由です。シンプルな構造に引き換え、音を出すのがとても難しい楽器でもあります。

ちなみに英語ではこのようなグループをEnd-blown fluteなどと呼んでいますが、この言葉は尺八やケーナ等、一部歌口を削っている笛も含みますので、僕が斜め笛と呼んでいる笛とはちょっと違います。(日本語でも"無蓋"という言葉がありますが、これはもっと広いくくりになります)

ということで、この記事では"吹き口が単純な筒状になっている笛"を「斜め笛」と定義し、紹介していきたいと思います。

 

斜め笛一覧

 

以下それぞれの詳細です。

 

カヴァル(Kaval)

バルカン半島やトルコ等に広く存在する斜め笛です。
国や地域によって若干タイプが違いますが、最もこの笛が盛んな国はおそらくブルガリアでしょう。ブルガリア音楽にはよくこのカヴァルが登場します。

ブルガリアのカヴァルは指孔が表に7つと裏に1つ。さらに通称「悪魔の穴」と呼ばれる、指でおさえない穴が通常4つ存在します。


Кавал До. Майстор на български народни инструменти З.Бешенджиев

 

ツァファラ(Tsafara)

ブルガリアの楽器で、カヴァルを小さくしたような6穴の斜め笛。

(0:50ぐらいからツァファラの演奏)


Irish Hymn on the Shvi and Tsafara

 

シュペリカ(Shupelka,Supeljka)

カヴァルとよく似たマケドニアの斜め笛。約30cmほどと小さめですが、約2オクターヴのクロマチックスケールが演奏可能です。表に6つだけ指孔があります。


Мастерская "Гармония звука". Шупелка в Соль из ясеня

 

ブルール(Blul)

アルメニアの斜め笛で、こちらもカヴァルとかなり似ていますが、指孔が9つあり、右手の親指以外は全て使います。また、吹き口が少し膨らんだような形状をしているのも特徴です。


ARGISHTY (blur\blul - armenian flute) - Mugam (Krunk - Nare,Nare)

 

カヴァル・ファラ・ドプ(Caval fara dop)

ルーマニアの斜め笛です。ルーマニアあたりで「カヴァル」というと、Moldavian Kavalと呼ばれているフィップル付きの笛を指すようで、斜め笛には「fara dop(栓無しの)」を付けるみたいです。Moldavian Kavalの影響だと思いますが、ハーモニック・マイナー系統の音階(おそらくDorian #4)が独特です。


Batraneasca la caval fara dop

 

フローヤラ(Floyara)

ウクライナの斜め笛。こちらも音階が独特です。


Hutsul Floyara

 

フリルカ(Frilka)

こちらもウクライナの斜め笛で、Floyaraをそのまま小型にしたような楽器です。


Михайло Тимофіїв. Фрілка

 

ネイ(Ney,Nay)

非常に古い歴史を持つアラブの楽器です。

指孔は表に6つと、離れた位置の裏側に1つ。マカームと呼ばれる、微分を含むアラブの音階で演奏されますが、僕はマカームのことはよく知らないのであまり触れないでおきます。

トルコのネイは吹き口にバシュパレというサポーターが付いていますが、エジプトのネイにはありません。ペルシアン・ネイ(イランのネイ)というものもありますが、それは後述する「ツォール」等と同じ吹き方をする楽器です。動画はトルコタイプです。


YOL - Sufî by Kudsi Erguner

 

カワラ(Kawala)

こちらもアラブの楽器で、指孔が表に6つだけで、ネイよりはかなり小さめです。


Kawala Taksim - 1 (Abdallah Helmey) - (كولا تقاسيم (عبدالله حلمي

 

ガスバ(Gasba,Qasaba)

チュニジア、アルジェリア、モロッコ等の北アフリカに存在する斜め笛。「ガスバ」というのがそのまま音楽形態の名前にもなっています。


Gasba Ouest Algérie Sib - Lucas Fovet Flutes- improvisation à l'atelier

 

ワシント(Washint)

エチオピアの代表的な笛。基本的には4つ穴のタイプが一般的ですが、多いもので10穴のタイプまであるそうです。年々奏者が減ってきていて、都市部には吹ける人はほとんどいないそうです。


Ethipia washint

 

エンビルタ(Embilta)

こちらもエチオピアの斜め笛ですが、ワシントよりもかなり長く、指孔が無いという特徴があります。ティグレ族が冠婚葬祭の時に使う笛で、複数人がグループとなって演奏します。隣国エリトリアでもよく使われる笛です。


*Tigrinya* - ትግርኛ - Traditional Tigrinya Music using Emblita - Agazian - ኣግኣዚያን ባህላዊ ሙዚቃ *

 

ソディナ(Sodina)

マダガスカルの斜め笛。フィップル付きのソディナも存在します。映像は最も偉大なソディナプレイヤーとして知られるRakoto Frah氏の演奏。


Gasikara - Telofangady, Rakoto Frah

サルアン(Saluang)

インドネシアのミナンカバウ族の竹笛。4つ穴で、斜め笛にしては直径が太め。

歌唱の伴奏として使われることが多く、循環呼吸を用いて曲の最初から最後まで息継ぎ無しで演奏します。


Saluang Klasik (AYAH TABUANG)

 

ツォール(Tsuur,Chuur,Choor)

ツォールはモンゴルおよびロシア連邦トゥバ共和国の笛です。

ホーミーやホーメイといった喉歌と組み合わせて演奏することもあり、指孔が3〜4つと少ないながら独奏でも十分すぎるぐらいの豊かな表現力を持っています。長さによっては片方の手を逆手にして持ったりします。

ちなみにここから紹介する笛は今まで紹介した笛と吹き方が若干違い、唇に当てるのではなく歯に当てるようにして吹きます。


Tsuur

 

クライ(Quray,Kuray)

バシキール人の斜め笛。指孔が表に4つと裏に1つあり、基本的に片方の手は逆手にして構えます。1番下の指孔を逆手にした手の親指で押さえ、2番目の指孔を薬指で押さえるという形になります。ツォールと同じく歯に当てて吹く笛です。

バシキール語だと「Ҡурай」と書きますが、この「Ҡ」というキリル文字はバシキール語独自の文字らしいです。僕は「クライ」と表記しましたが、「コライ」にも聞こえる微妙な発音になります。


kuray

 

シビズギ(Sybyzgy)

カザフスタンの笛。


Sybyzgy

  

ガルギ・トゥイドゥク(Gargy-tuyduk)

トルクメニスタンの斜め笛です。


Gargy Tuyduk

 

 

まとめ

斜め笛は東欧、アジア、アフリカ等を中心にかなり広い地域に分布しています。当然今回紹介した以外にもたくさんありそうですが、僕の把握している範囲だとこんなもんです。(その他にも斜め笛の可能性がありそうなのがSyylas、Telynka/Tilinca、Shagur、Froyarka、Shmshall等。言語の壁で掘り下げられなかったり、斜め笛と断定できない部分があり記事には載せていません)

もし動画を見て興味が出たという方は、日本でもカヴァルやネイであればすぐに手に入りますし、ebayであればカワラやブルール等も出品されています。安いカワラが¥3,000ぐらいから、高級めなカヴァルでも最大¥30,000ぐらいじゃないでしょうか?楽器の中ではとても安い部類だと思います。

冒頭でも書きましたが、音を出すのが難しい反面とても魅力的な楽器なので、是非斜め笛に挑戦されてはいかがでしょうか?

それでは!