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12平均律の拡張 ー 自然数平均律から実数平均律まで

12平均律とは、1オクターヴを12等分するような音律のことです。

 

ピアノの鍵盤を見てみましょう。

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ドと上のドの関係のことを1オクターヴと言い、それをさらに12等分している音律なので、この音律のことを12平均律と言っています。普段日本で耳にする音楽のほとんどは、この12平均律という音律でできています。

 

さて、今回この記事では12平均律の「12」を、数学に登場する自然数の「12」として扱い、数学的に拡張していくのが目的です。12という自然数平均律から、有理数無理数……となっていくとどうなるのか、是非お付き合いください。

 

その前に、12平均律をまずは数学的に分析してみましょう。

 

冒頭で「1オクターヴを12等分する」というように述べましたが、この「12等分」というのは数学的にいえば等比数列で分割しているということになります。

そもそも1オクターヴというのは2倍の周波数をもつような音の関係のことをいうので、12平均律の場合は、12回掛け算すると丁度2倍になるような数が各音と音との関係(公比)になります。このとき公比は 2^{\frac{1}{12}}となります。

 

例えば基準となる音の周波数が440Hz(初項が440)だとすると

 440,440\times2^{\frac{1}{12}},440\times2^{\frac{2}{12}},440\times2^{\frac{3}{12}},440\times2^{\frac{4}{12}},440\times2^{\frac{5}{12}},440\times2^{\frac{6}{12}},

  440\times2^{\frac{7}{12}},440\times2^{\frac{8}{12}},440\times2^{\frac{9}{12}},440\times2^{\frac{10}{12}},440\times2^{\frac{11}{12}},880,\cdots

といったような数列になります。

実際の音名でいうと、440HzはA(ラ)の音なので、それが半音ずつ上がっていく半音階となります。つまり先ほどの数列は

A, A#, B, C, C#, D, D#, E, F, F#, G, G#, A,…

といったようなAから始まる半音階の周波数を表しています。

 

それでは、12以外の自然数でも試してみましょう。

 

 

自然数平均律

12以外の自然数を使って平均律を作ります。

例えば、53平均律(実際にあります)というものを考えると、隣り合う音同士の周波数比は 2^{\frac{1}{53}}となります。

基音を440Hzとすると

440,440\times 2^{\frac{1}{53}},440\times 2^{\frac{2}{53}},440\times 2^{\frac{3}{53}},\cdots,440\times 2^{\frac{52}{53}},880

こんな感じでしょうね。

同じようにどんな自然数でも平均律をつくりだすことが可能です。

自然数nを使った「\mathbb{N}平均律」をつくるとするなら、以下のようなことがいえます。

\mathbb{N}平均律の連続した2音の関係性 (nは0でない自然数

周波数がxの基音に対し、一つ上の音の周波数は

  x\times 2^{\frac{1}{n}}

 

※ここで念のため、負の数を使った平均律も考えておきましょう。
例えば-12平均律というものを考え、先ほどのnに-12を代入すると、その周波数比は 2^{-\frac{1}{12}}となります。さらにこれを変形すると \frac{1}{2}^{\frac{1}{12}}となるはずです。基準の音を440Hzとすると

 440,440\times \frac{1}{2}^{\frac{1}{12}},440\times \frac{1}{2}^{\frac{1}{12}},\cdots,440\times \frac{1}{2}^{\frac{1}{12}},220

これは、440Hzから少しずつ下がっていき、12個目に半分になるという数列です。音楽的に言えば、12平均律のAの音から半音ずつ下がっていく音階なので、本質的には12平均律も-12平均律も違いがないのです。

よって、以下検討する平均律についても基本的に非負数として考えていきます。

 

 

 有理数平均律

続いて有理数平均律も考えていきましょう。

例えば、\frac{25}{2}平均律というものを考えます。こちらも53平均律同様、実際に存在するようです(詳細は失念してしまいましたが、シンセサイザーでパーカッションのノイズ音を作り出す際に \frac{25}{2}平均律を使ったという話を聞いたことがあります)。

 \frac{25}{2}平均律というのは、2オクターヴを25等分した音律という風に考えられます。440Hzの基音Aからスタートし、2オクターヴ上(周波数は2×2で4倍)の1760Hzの音までを25分割するというような音階です。周波数比が4倍の音を25等分しているので、公比は4^{\frac{1}{25}}となります。

さらに一般化のしやすさを考え、以下のように変形しておきます。

4^{\frac{1}{25}}=2^{2\times \frac{1}{25}}=2^{\frac{2}{25}}

このように、\frac{25}{2}平均律の各音の比は2^{\frac{2}{25}}となります。つまり、2を逆数乗したものとなるのです。

 

任意の有理数\frac{n}{m}を用いたの\frac{n}{m}平均律を考えると

\frac{n}{m}平均律の連続した2音の関係性 (n,mは0でない自然数

周波数がxの基音に対し、一つ上の音の周波数は

  x\times2^{\frac{m}{n}}

 

さらにこの有理数を2つの文字を使った分数でなく、qという1つの文字で表した\mathbb{Q}平均律

\mathbb{Q}平均律の連続した2音の関係性 (qは0でない有理数

周波数がxの基音に対し、一つ上の音の周波数は

  x\times2^{\frac{1}{q}}

 となります。

 

実数平均律

続いて実数の平均律です。

自然数有理数での発想をそのまま使えば、以下のような式で実数平均律\mathbb{R}平均律)を表すことができます。

\mathbb{R}平均律の連続した2音の関係性 (rは0でない実数)

周波数がxの基音に対し、一つ上の音の周波数は

  x\times2^{\frac{1}{r}}

さて、実数平均律の音同士の関係性はできましたが、実際どのような音の並びになるのでしょうか?適当な無理数を使って考察してみましょう。

 

平均律

平均律というものを例にとってみます。先ほどの式に代入すると、3π平均律の公比は2^{\frac{1}{3\pi}}となるので、これを用いて基音440Hzから音が上がっていく様子を観察してみます。

 440,440\times2^{\frac{1}{3\pi}},440\times2^{\frac{2}{3\pi}},440\times2^{\frac{3}{3\pi}},\cdots

このままだとわかりづらいので、少数第5位までの概数を求めて縦書きにしてみます。

①440.00000
②473.57956
③509.72182
④548.62236
⑤590.49167
⑥635.55633
⑦684.06020
⑧736.26575
⑨792.45548
⑩852.93345
⑪918.02693
 ……

 

第9音と第10音あたりで440Hzとのオクターヴ関係となる880Hzに近づきますが、一致せずに通り過ぎてしまいます。これは、3π=約9.424778…

当たり前といえば当たり前ですが、この基音440Hzの整数倍となる音はありません(基音以外もですが)。これは音楽的にいうと、どの2音を選んでもハモらない音階ということになります。

 

さらに直感的にイメージを掴むために、Audacityで3π平均律を1音ずつ鳴らしてみました。(音ひどくてすみません)

soundcloud.com

 

 

(12平均律に対して)音感の強い人にとってはかなり違和感のある音階だと思いますが、これはこれでアリといえばアリなのかなぁと思います。聴く人によってどう感じるか気になるところ。

 

無理数平均律は使えるか

さて、無理数平均律がハモらない音階をつくるということがわかりましたが、この音階が音楽的に使えるかというと、かなり微妙なところです。

一切和音を作らない音階なので(現代音楽的な扱いをしない限り)メロディに特化するしかありませんが、例えばグレゴリオ聖歌(Gregorian Chant)みたいな音楽はちょっと合わなそうですね。

楽器でいうとマリンバやラメラフォンのような残響短めなものが合いそうなので、その辺りの楽器を使ったミニマルミュージック的な方面は意外と可能性あるかもしれません。

無理数平均律を演奏できる楽器を作らないといけませんが、それはそれで面白そう。ということで無理数平均律の作曲家、楽器製作家、募集中です。

 

今回はこの辺で。それでは!