話は尽きない

音楽、数学、言語学、人類学などについて

バルカンのリズムについて

最近、バルカン半島の音楽にハマっています。
前からブルガリアを中心にバルカン音楽はよく聴いていたんですが、最近特にバルカン関係の方と知り合ったりライブに行ったりと、積極的にバルカン音楽を浴びています。

ということでこの記事では、バルカン音楽の魅力の一つとも言える少し変わったリズムについて、自分の備忘録も兼ねてまとめてみました。

バルカンのリズムの特徴

 バルカン音楽は、我々日本人にはもちろん、世界的に見ても特殊なリズム体系を持っていると言えます。というのも、5拍子・7拍子・9拍子といったいわゆる変拍子が当たり前のように登場し、さらにそれらを組み合わせて18拍子、22拍子、25拍子などの複雑な拍子が存在するからです。プログレッシヴ・ロックの領域でこのように複雑な拍子もしばしば見かけますが、民族音楽の中でここまで複雑な拍子は稀有だと思います。
 現地人からしたらこれらのリズムが当たり前のことなので、幼い頃から歌ったり踊ったりする人もいるわけですが、外側の人間からすると非常に興味深い対象になっているのです。

リズムの仕組み

 バルカン音楽におけるリズムの感じ方は「クイック」と「スロー」の2種類しかありません。クイックに対してスローは1.5倍の長さを持ちます(リズムの訛りによって変動する場合もありますが)。2種類のリズムの長さを最小の整数比で表すと『クイック:スロー=2:3』と考えることができます。このことから、西洋音楽の拍子の概念ではクイック=2拍子、スロー=3拍子と解釈しており、2拍子のクイックと3拍子のスローが組み合わさって曲のリズムになっています。

例えばセルビアの「Ajde Jano(アイデ・ヤーノ)」という曲は7拍子ですが、曲全体を通してスロー(3)、クイック(2)、クイック(2)という組み合わせでできています。こういった7拍子の場合はリズムを「3+2+2」と表現したり、クイックとスローの頭文字SとQを使って「SQQ」と表現したりします。
(Ajde Janoの歌い出し)
f:id:yoheijimbo:20180907195753j:plain



また、ブルガリアの「Jove malaj mome(ヨヴェ・マライ・モメ)」という曲は18拍子で、リズムは「3+2+2+2+2+3+2+2」あるいは「SQQQQSQQ」となるのですが、ここまで長い拍子の場合はさらに全体を大きく分割して解釈することがあります。Jove malaj momeの場合は全体を「7+11」のように大きく2つに分けて解釈し、「3+2+2, 2+2+3+2+2」や「SQQ|QQSQQ」、あるいはそのまま「7+11」等でリズムが表記される場合も多いです。
(Jove malaj momeの歌い出し)
f:id:yoheijimbo:20180907202628j:plain

※マケドニアのリズム表記

 先ほど紹介した「3+2+2」や「SQQ」のような表記の他に、マケドニア式のリズム表記方法があり大変便利なので紹介しておきます。

マケドニアのリズム表記方法
 『全体のリズム分割の数 / スローが入る順番』

例えばAjde Janoのリズム「3+2+2」は全体が3つに分割されていて、なおかつスローは1番目に入っています(1拍目が長い3拍子という解釈)。つまり上記の表記方法に則ると「3/1」と表すことができます。
Jove malaj momeのリズム「3+2+2+2+2+3+2+2」であれば、マケドニア表記では「8/1.6」というようにスラッシュの右側にスローが入る位置を全て書き出し、ピリオドを入れて区切ります。
コンパクトかつ再現性が高い(パッと見ただけでも演奏しやすい)のでとても優れた表記法なのですが、残念ながらあまり浸透していないようです。

変拍子の曲名リスト

バルカン音楽には2拍子の曲も多数ありますが、一般的に変拍子とされる拍子の曲のみをいくつか紹介していきます。

5拍子(2+3)

・Pajdushko horo

7拍子(2+2+3)

・Ergen deda
・Eleno mome
・Rachenitsa
・Tsufnalo byalo kokiche

7拍子(3+2+2)

・Ajde Jano
・Ajde, razbole se
・Antipera(※一部のみ7拍子)
・Chetvorno horo
・Kalamfil
・Trugnala Rumjana

9拍子(2+2+2+3)

・Byala roza
・Kaval sviri
・Kojchovata
・Svornato horo

11拍子(2+2+3+2+2)

・Gankino horo
・Kopanitsa
・Lamba lamba
・Tushkano horo
・Trenke todorke

13拍子(2+2+2+3+2+2)

・Krivo plovdivsko horo

14拍子(9+5 / 2+2+2+3+2+3)

・Bichak
・Elbasansko horo

15拍子(2+2+2+2+3+2+2)

・Buchimish
・Posedonitsa

18拍子(7+11 / 3+2+2+2+2+2+3+2+2)

・Jove Malaj Mome

22拍子( 9+9+4 / 2+2+2+3+2+2+2+3+2+2)

・Sandansko horo

25拍子(7+7+4+7 / 3+2+2+3+2+2+2+2+3+2+2)

・Sedi Donka

より複雑な組み合わせにより出来ている曲

・Krivo Ihtimansko Horo

Intro(8+9+8+8 / 2+3+3, 2+3+2+2, 2+3+3, 2+3+3)
A(13+8+8 / 2+3+3+2+3, 2+3+3, 2+3+3)
B(13+13+13+8+8 / 2+3+3+2+3, 2+3+3+2+3, 2+3+3+2+3, 2+3+3, 2+3+3)

・Dilmano Dilbero

構成の説明が難しいので一部を譜面にしました。
5(2+3)、8(2+3+3)、11(2+3+3+3)の拍子から成り立っています。
f:id:yoheijimbo:20180907231722j:plain



ということで今回は以上です。


※一時的な告知
9/22にバルカン音楽のライブをやります。
興味のある方は是非!
9/22(土)『BALKASUS meets Indian Music vol.1』 – YOHEI JIMBO